クラックの語源は、「ひびが入る」とか「割れ目ができる」といったところだ。クラックを製造する工程で、パリパリといったひびの入るような音がするのだそうだ。そこから「クラック」という呼び名が生まれたのだ。


クラックのHNをもつ、名古屋のネット売人は、氏素性、顔写真までネット上で公になってしまっている。職業の詳細から、過去の履歴までオープンになってしまっている。裏社会の住人には珍しいことだ。クラックは、あるジャーナリストの活動を妨害すべく、裏社会から起用された。随分と前の話である。クラックは、ジャーナリストKの後援会組織に賛同者を偽装して入り込み、組織内組織を作る任務を遂行した。そして、自らが、ジャーナリストKの直接の指示を受けていると称して、関西支部の分派活動をやろうとした。そして、見事に失敗し発覚してネット上に「晒され」たのだ。実は、クラックの任務の最終目標は、ジャーナリストKの暗殺と、後援会組織の乗っ取りだった。そこまでやらなければならないほど、裏社会は、Kに追い詰められていたのである。


クラック….加藤(仮名)ということにしておこうw。加藤某は、ある球技の選手だった。世界の一流選手の集まるヨーロッパの某国に赴き、一流選手とともに球技に励んだ。同時に、男性同性愛の性技と麻薬の奥義を極めた。ヨーロッパで立派なジャンキーホモとなって帰国したクラックは、実家の店の商品を売りながら、オクスリのネット流通業にも従事していたのだ。


日本の裏社会は、薬物常習者を裏社会工作要員としてリクルートする。裏社会は、麻薬の密輸と流通を行うことで、ジャンキーを見つけ、組織化してきたのである。その目的は明白である。ジャンキーは、犯罪者である。犯罪者は、警察や厚生労働省などの摘発から守ってくれる「組織」に服従する。警察やメディアにも影響力がある「組織」の庇護下にいれば、安心してシャブ中を続けられる。


「逮捕されない特権」とでも形容すべきか?そして、ジャンキーは組織から、比較的安価に薬物を適宜、入手することができる。この居心地の良い環境を維持するためなら、ジャンキーは何でもする。組織の命令通り、多少危ない橋もわたる。シャブのお陰で気が大きくなっているから、大胆な行動もとれるのだ。

「オクスリ」がすべてに優先するのである。勿論、「終わりの日」はいつかやってくる。多くの場合、ジャンキーの行きつく先は「死」であるが。ジャンキーの周囲は、死屍累々なのである。(続く)

真っ黒は、その裏社会工作員の古株であるクラックから、覚醒剤を調達した。そして、それを契機にクラックを介して、晴れて、日本の裏社会へとリクルートされたのである。人間のクズの仲間入り、おめでとう、真っ黒君。真っ黒君は、クラックたちも、他の数多の工作員たちも….誰一人できなかったジャーナリストKの口封じを、組織から命じられ、クスリの勢いのおかげで、「俺だったらできる」と錯覚して、本気になっていく。組織の約束した成功報酬は、真っ黒君のやる気を倍増させたのだ。必要経費の支給も魅力だ。シャブは、当面、無償支給だというではないか。凄い好待遇だ。


だが、シャブを打とうが何を打とうが、うまくいかないことはうまくいかない。Kの口封じなど、全く、実現しない。真っ黒には、次第にKの口封じなど、工作の目的ではなくなってくる。要するに、裏社会の自分への評価を高くすれば、報酬もシャブ支給も増えるのだ。だから、自分たちの功績を派手に印象付けるために、パフォーマンスを行う。あたかも「大成功」したかのように、互いに誉めそやすのだ。「これで、今月のシャブ代は確保した….」と、一息つくのだ。幹部もさらに上層部に報告するのに、誇大な戦果を強調する。叱責を受けないために、大袈裟に、Kにダメージを与えたと強調する。だが、ダメージを与えたなら、何故、Kは黙らないのか?最高幹部は、自分の進退問題となってきたKの存在に、頭を抱える。「アイゴー」と無意識のうちにため息が出る。


中級幹部が懐に持つ手駒は、クラックや真っ黒だけではない。猫角姉妹の自動車保険詐欺を手伝ってきたホース・エイジ自動車修理工場の中華麺社長もまた、同じ、裏社会工作員リングのメンバーなのだ。そして、猫角姉妹は、中華麺社長との交流を通じて、この後、裏社会の様々なメンバーと遭遇することになるのだ。詐欺や人殺しを貫徹するに必要な人材が、裏社会の手で見事に準備されていたのである。


現実論だが、10年以上前にクラックたちがやろうとして失敗した、Kの口封じを、真っ黒風情にできるわけがない。その試みは、惨めな失敗に終わる。それどころか、組織の構成員が次々と暴かれ、ジャンキー集団、保険金殺人集団の全容が表に出てしまう。組織は、ジャーナリストKを潰そうとして、潰すどころか、組織のはらわたを曝け出してしまったのだ。Kを黙らせる目的で始めたことが、裏社会の全容を自ら露呈するという、とんでもなく間抜けな結果を呼び込んでしまったのである。「馬鹿丸出し」という形容では間に合わないほどの馬鹿さ加減である。裏社会の幹部たちは、互いに責任を擦り付け合い、部下に無理難題を押し付けて右往左往している。だが、もはや、裏社会に出来ることはない。半島の北の方の本国に逃げ帰っても、懲罰の極刑が待っているだけだ。


組織の構成員たちは、これから、覚せい剤取締法違反で5年以上も別荘生活をすることになる。そして、金欲しさに保険金殺人に加担していた馬鹿どもは….天井から吊るされるか、刑務所で人生を終えることになるのだ。(続く)


真っ黒が、介護業界に入ったのは、他に仕事がなかったからだけではない。この業界への就職を考えた時点で、真っ黒は既に裏社会にリクルートされていたのだ。つまり、真っ黒は、裏社会の肝いりで介護施設に入社したのだ。そして、施設も、裏社会に指定された施設だったのだ。


裏社会が、真っ黒に求めた「シゴト」とは何であろうか?背筋が寒くなった読者もいるであろう。だが、その想像される背筋の凍る「役割」とは別に、真っ黒には重大な使命が与えられたのだ。保険金詐欺業界のエリート的業務である。マーケティング部門とでもいうべきか。


介護事業は、細かい分類があり、極めて複雑で素人には分かりにくい。「指定居宅サービス事業」という分類だけでも、訪問介護、訪問入浴、訪問看護、訪問リハビリ、通所介護、通所リハビリ、短期入所生活介護、短期入所量要介護、居宅療養管理指導、特定施設入居者生活介護…..頭が割れそうだ。この辺りで止めておこう。要するに、介護の仕事は、老人ホーム、デイサービス、訪問介護といった分野に分かれるが、介護詐欺業界の犯罪者の観点からすると、どの分野で、いかに捕まらないで不正を働くかということが重要なのだ。


猫角姉妹のケースで言えば、もはや、介護報酬の不正請求といった手段が使えず、かつ、その程度の不正では、巨額の負債をカバーできない危機的状況にある。そうなると、介護事業からいかに大金を生み出すか知恵を絞らなくてはならない。「やはり成年後見人制度を悪用した財産与奪しかないな。」姉妹は、この結論で一致する。そうなると、まずは、強奪できる財産を持っている呆け老人を探さなくてはならない。しかも、処分した財産を懐に入れられる「条件」に合致している老人でないと、徒労に終わってしまう。


この種の犯罪を始めるにあたって、まずは、カモの老人を探す作業が必要になる。その作業を担当するのが、真っ黒のような、裏社会の派遣したヘルパーさんということになる。老人ホームで、懇切丁寧で、真摯なサービスを行い、入所者や家族の信頼を勝ち得る。本人や家族の相談にも一生懸命応じる。結果、家庭の事情や財産の状況も聞き出すことができる。「母一人子一人」で、息子は母親名義の財産を処分したがっている。勝手に財産を処分すれば、横領となり捕まってしまう。母親は、認知症が進んでいる。息子に知恵をつけて、息子に成年後見人として選任するよう家庭裁判所に申請させる。現金化した財産の山分け….それだけでなく、生命保険も絡めて、もっと大きく儲けたいところだ。


一方、猫角姉妹も、同様に、カモを探している。ネコネコハウスに問い合わせをしてくる新規の客のなかに「宝石」を見つけようとする。だが、カモだと思って拾ってきた婆さんが、たいした財産も持っていなかったと分かったりする。事前の調査が不完全だったのだ。やはり、弁護士や司法書士のように、家族や財産の事情を調べることのできる立場でないと、カモの選別はできないのだ。(続く)

成年後見人制度が発足して当初、制度を悪用した「着服」のほとんどが、親族によるものだった。つまりは、最初の頃は、親族が成年後見人になれば、親の財産を盗み放題だったということになる。ということは、親の財産を早く使いたい馬鹿息子と組めば、資産家の認知症のお婆ちゃんの金を取り込めるではないか。馬鹿息子と折半になるかもしれないが。


「だったら、養子縁組で息子になってしまえば、資産家の財産を取り放題ということじゃないの?」

理論上は、そういうことになる。まずは、養子縁組で、根田切さんちのお婆ちゃん74歳の息子になりすます。そして、次にお婆ちゃんの成年後見人になる。おばあちゃんの財産を次々と換金して盗み出す。役所への成年後見人としての報告の期限が来る前に、お婆ちゃんには、老衰であの世に行ってもらう….。死んでしまえば、役所への報告は不要になる。お婆ちゃんが死んだあと調べに来るほど、役所も暇ではない。カリウム注射で殺しても、滅多なことでは検視なんかには回されない。血液検査されたら、一発でアウトだが….。ほぼ、完全犯罪である。


しかし、大前提は、お婆ちゃんと養子縁組ができること、文句を言う親族がいないこと、あとから財産分与を主張する煩いのがいないことである。そういう「金の卵」お婆ちゃんを見つけ出せないと、何も始まらないのだ。


こんな養子縁組手口も実際に行使されているであろう。養子の役を演じる共犯者が一人いれば、何年か掛けて、このプロジェクトを熟成できる。保険金詐欺も絡めて。しかし、親族による成年後見人制度を悪用した財産着服が社会問題化した。裁判所は、親族による後見人申請の審査を厳しくした。代わりに、弁護士、司法書士、介護士による申請を奨励した。結果、成年後見人の半分以上が「親族以外」となった。


そして….呆れたことに、弁護士、司法書士、介護士による「着服」が激増した。主に司法書士の荒稼ぎの新たなフィールドとして、介護分野が俄かに台頭したのだ。まったく、汚れきった世の中である。犯罪予備軍はどこの社会単位でも、すきを見てつけ入ろうと機会を覗っているのだ。弁護士すら信用できない「世も末」状態である。


日本弁護士会は、所属弁護士による「後見人犯罪」が多発したために、緊急指示を各弁護士会に出した。後見人による家裁への業務報告が遅滞なく漏れなく行われているかを確かめるように。だが、そんな通達がだされたということは、現状では、後見人犯罪を監視する術などないに等しいということだ。日弁連がいくら、建前論を振り回しても、拘束力のない通達など、何の歯止めにもならない。愛知弁護士会の「不祥事記録」を閲覧してみたい衝動に駆られるのも、無理はない。


専門家は、「市役所などの行政機関が監督する立場に加わり、不正を防ぐ態勢を早急に整備すべきだ」と問題点を指摘している。ということは、現状では、地方自治体も、全く、不正防止の手立てを打っていないということだ。詐欺師のやりたい放題状態。悪が蔓延るに最適の湿度と温度の環境が揃っている。饐えた悪臭が漂ってくる。


もっとも、「後見人犯罪」という新しい裏社会稼業の世界を切り拓いたのは、弁護士よりも先に司法書士だったのであるが。(続く)

カモを見つけるのに最適な「場」がある。


某巨大カルト宗教は、宗教団体というよりも「自分の不遇を嘆いて、お互いに傷をなめ合い、慰め合う」互助団体のようなものである。

毎回、自分の家庭の不遇な話、家庭不和など、複数の信者の前でご披露して、お互いを慰め合う。やっと話を聞いてくれる人たちが見つかったと、教祖の田池センセイに感謝する。


巨大カルトに営利目的で入り込んだ介護詐欺分野のマーケティング部員は、そういった内訳話に耳をそばだてる。財産をどのくらい持っているか、親族の構成は?ぶっ殺して金に換えられる爺さん婆さん、邪魔な旦那はいないか?そして、親族に「分け前」を保証することで、保険金詐欺に協力させる。結果、保険金詐欺の犠牲者の多くが、S禍学会の信者ということになってしまう。


S禍学会の中年女性信者には、配偶者が突然死するケースが異常に多いという。そして、配偶者の死後、立派な新築の家が建つ。娘も息子もろくに働かない。勿論、無教養、無学歴、無資格だから、働いてもろくな収入にはならないのだが。大概が、なぜか、足立区に住んでいる。しかし、なぜか、裕福な生活をしている。


30過ぎの娘は、統合失調症を患い、日々、薬漬けの生活だ。20代初めの頃は、キャバクラ勤めでブイブイ言わせていた。結婚はしたが、自分の薬物依存症で別れた。覚醒剤にも手を出した。別れた夫との間にできた娘を一人抱えているが、統合失調症の診断を貰って、生活保護を受けている。実家の近くにマンションを借りて、娘と一緒に住んでいる。生活保護は、親族と別居していないともらえないからだ。


母親は、勿論、水商売上がりだ。40ちょっと前くらいまでは、派手なヒラヒラドレスで、男の目を幻惑した。二度結婚したが、二度とも夫と死別した。死別する度に、なぜか、リッチになったが。二度目の結婚で出来た次女は、優しく大人しい性格だ。横暴で一方的な長女による圧制によく耐えている。長女は、父親の違う次女をことあるごとに攻撃し、暴言を吐く。だが、温和な次女は、同じ母親の子宮から生まれた長女には逆らえない。堪えるしかない。母親は、いつ爆発するかわからないシャブ中の長女を腫れ物に触るような思いで接している。だから、次女の極限的な思いなど、気にかける余裕はない。まだ、20代前半の次女の行く末が心配だ。地獄のS禍家族から離脱できる日が来ることを願っている。


一端、裏社会の稼業の恩恵を受けると、裏社会から、他の仕事を仰せつかる。シャブを分けてもらっている関係で、裏社会の依頼には答えるしかない。ジャーナリストKへの妨害工作、ハニトラ工作に起用されたのは、随分と昔のことだった。だが、ほどなくして、Kにシャブや保険金詐欺を見破られて、派手な母子は、Kの前から、こそこそと逃亡していったのである。(続く)

シャブを使用すると、早い段階で酷い虫歯になる。奥歯は勿論やられるが、前歯もボロボロになる。覚醒剤の使用者は、前歯を見ればわかる。なぜ、虫歯が進行するのか?


シャブをやると、体の清潔度など気にならなくなる。風呂に入らない。髪を洗わない。歯を磨かない。ぼさぼさの髪。洗った形跡のない浅黒い顔。開いた瞳孔。ぼろぼろの前歯。「真っ黒」の現状、そのままだ。不潔が原因で虫歯になるのか?それだけではない。


シャブをやると、口中の唾液の分泌が減少する。PHも酸性に振れる。結果、虫歯が進行しやすい口内環境が生まれる。そういうメカニズムらしい。よって、シャブ中は、こぞって歯医者通いをする。場合によっては、前歯をインプラントに差し替える。カネが掛かる。金持ちのシャブ公なら、たいした負担とは思わないだろうが、普通のシャブ公には無理な負担だ。そこで、犯罪行為に走って、歯医者代を捻出しようとする。それ以前に歯医者代どころか、シャブ代も稼がなくてはならない。


シャブ組織からは、裏社会への勧誘がなされる。美味しい話をいろいろと聞かされる。シャブ組織の後ろ盾は、とてつもない権力を持った国際的組織だという。絶対に発覚することの無い世界最強の組織だという。「1%オリガーキ」とかいう聞きなれない組織名が耳に入ってくる。この世界最強組織が、裏社会組織のメンバーの庇護にまわってくれるという。1%オリガーキの日本支部は、警察や裁判所にもネットワークを巡らせている。阿邊神像という超大物政治家が、日本支部の長だという。メンバーのシャブ中をシャブ中摘発から守ってくれるという。警察内部の協力者が、捕まってもお目こぼしをしてくれる。捕まらないように逃がしてくれるというのだ。


中年の失業者、憲道にとって、こんな好都合な話はない。心置きなくシャブを堪能できる。今更、シャブを断つことなど不可能だ。止めようと思っても、足が勝手にシャブのある所に向かって歩いていく。

酒の席でひどく酔っぱらって、くだを巻いて顰蹙を買ったことは何度もあるが、実は、そのうちの何度かは、酒とシャブの相乗効果で高揚していたのだ。そういうときは、いつになく酷く口汚く周囲を罵る傾向が強かった。シャブと酒とでは、酩酊の結果が違うのである。

夜12時過ぎまで泥酔して、飲み仲間と別れる。タクシーで新宿歌舞伎町に向かい、売人からシャブを手に入れる。トイレの個室で待ち切れずに、袖をまくる間もなく、シャブの注射器を腕に突きさす。陶酔の時間を楽しむ。そして、やりすぎて、階段から転げ落ちる。


憲道にシャブを教えたのは、同居する女だった。女は自然食サークルでシャブに嵌った。自然食の励行による一日一食主義で急激に痩せた….ことにした。確かに、シャブを打てば食欲はなくなるから、一日一食で十分になる。女は見る見るうちに、腹の皮が余って、波状に垂れ下がるほど、急激に痩せていった。詳しくは後述することになろう。


憲道は、裏社会組織に参加する。いくつか、裏稼業を命じられる。自動車保険のレンタカー詐欺など、かわいい部類の不正だ。ジャーナリストKにたいする妨害工作に加担すると、様々な成功報酬が用意されている。まずは、この辺りの「軽作業」に動員される。組織への服従度が進むと、「肉親を殺して億を稼ぐ」プロジェクトの張本人、主役としての活躍を期待される。年老いた父親に億単位の保険金を掛けて、ぶっ殺すというのだ。裏社会は、老親が会社社長であるところに目をつけたのだ。経営者保険をたっぷり掛けても疑われないからだ。(続く)


猫角姉妹は、経営する介護会社の中核施設である「ネコネコハウス真ん中」に問い合わせしてきた「カモ」に着目した。70代後半の認知症の母親を持つ息子、阿蘇太郎、56歳だ。痴呆の老母を抱え、仕事が出来なくて困っている。もともといた会社はリストラで首になって、今は、派遣で働いている。時給は1280円だ。危険物取扱主任の資格を持っているので、時給が少し高い。


なるべく安い施設に母親をぶち込んで、生活費を稼ぐために働きに出たいという。女房子供は、とっくに愛想をつかして出ていっている。離婚したらしい。現金はないが、10年前に死んだ父親が遺した不動産や株券がそこそこあるらしい。だが、名義は全て母親だ。息子が勝手に処分するわけにはいかない。権利書も印鑑もどこにあるのか、息子にはよくわからない。銀行の貸金庫の中かもしれない。本当にどれくらいの不動産を持っているのかも、いまいち、はっきりしない。呆ける前の母親は、息子に財産を収奪されるのを恐れて、財産隠しをしたのだ。それに、実家にある書類をいくら眺めても、息子には何のことだかほとんど理解できない。あまり、頭の切れる人物ではなかったのだ。


この息子に、母親の財産を引き出す犯行を持ち掛ける。勿論、酒の席でだ。息子は財産は激しく欲しがる。50代後半になって、生活のために働きたくないのだ。できれば、働かずに、毎日、好きなことをして暮らしたい。キャバクラ通いもしてみたい。だが、母親の財産を息子が勝手に引き出せば、横領になることくらいは知っている。だから、自分が母親の成年後見人になって、犯行の主役を演じることは嫌がる。


角姉妹は、代案を提示する。猫角蜜子が、介護福祉士の資格で、老母の成年後見人となることを役所に申請する。首尾よく認可されれば、老母の財産に手を付けて、息子に渡す。猫角蜜子は、手数料として3割をいただく。当時、成年後見人を親族以外が引き受けるケースが増えていく過程にあった。弁護士、司法書士以外に、10%程度は、介護福祉士が後見人に選出されたのだ。猫角姉妹は、そこを狙ったのだ。


だが、欲深い息子、阿蘇太郎は、3割は取りすぎだと同意しない。「この話はなかったことにしてくれ」と立腹して言い出す。仕方なく、2割で手を打つ。こうなったら、別の手口で、婆さんの財産を丸ごと収奪するしかない。「この馬鹿息子が―。欲張りやがって。」欲張っているのは、猫角姉妹である。(続く)


首尾よく、地元の家裁で、猫角蜜子が、阿蘇太郎の母親の成年後見人として認可される。ババアは、ネコネコハウスの木賃宿にぶち込んでしまう。一応、介護付き老人ホームということで、認可はとってある。かなり、いい加減だが。これで、ババアの自宅は、好きなだけ家探しできる。


問題は、権利ばかり主張する息子、阿蘇太郎だ。こいつの口を封じておかないと作戦は円滑に遂行できない。阿蘇太郎に酒を飲ませる。3軒連れまわして、したたかに酔わせる。3軒目のクラブのVIPルームで、ちょっと風邪気味だという阿蘇太郎に、風邪の特効薬だと称して、シャブを打つ。「大丈夫よ。お医者さんの処方で貰った薬だから。」医師でも看護師でもない人物が注射を打つことの違法性を知らない太郎は、酔いもあって、身を委ねる。シャブが静脈にシャブシャブと入っていく。確かに、風邪の症状は吹き飛んで、急に元気がもりもり湧いてきた。凄い薬だ。だが、酩酊しているので記憶が定かではない。


翌日、あの薬の爽快感が忘れられなくなった太郎は、蜜子の元を訪れる。「あの風邪薬、まだあるかな?」「え、何の話?私、知らないわよ。昨日のお店だったら、池袋のキャバクラよ。キメセクっていう店。あそこに行って聞いてみたら?」


太郎は、池袋キメセクのVIPルームに通される。母親の財産が一部だが入り始めたので、軍資金には余裕がある。とりあえず、蜜子が老母の普通預金から、現金を引き出して「分け前」を渡してくれたのだ。キメセクのホステス、ヒポポタマスちゃんを指名する。ちょっと小太りの、鼻が横に広がった、大きく開いた口がチャームポイントのかわいい娘だ。今時、滅多にいないような丸い性格の、絶滅危惧種みたいないい娘だ。「かばー」と語尾につけて話すが、どこの方言だろうか?水浴びが大好きだそうだ。


ヒポポタマスちゃんと楽しいひと時を過ごす。膝に手を置いて、ひらひらのスカートの中に、徐々に侵入させる。ヒポポタマスちゃんは、限界までは侵入を容認し、極限までくると「別料金よ」と言って、太郎の手を払いのける。


太郎は、かなり酩酊してくる。「昨日、風邪薬の注射してくれたっけ?」「あれ….まだある?」ヒポポタマスちゃんは、「あるけど、少し高いよ。」という。エルメスのカエル色の財布から10万円を取り出して、ヒポポタマスちゃんに渡す。金を持っているところをヒポちゃんに見せびらかしたい。できれば店外デートを申し入れたいのだ。10万円を無言で渡したのは、「おカネはいくらでも出すよ」という意思表示である。老母の預金から手に入れた現金は、まだ、財布にはち切れんばかりに入っている。(続く)

太郎は、まずは、キメセクのVIPルームで「風邪薬」を一発きめる。めくるめく陶酔の世界だ。3-4時間は興奮が持続する。帰り際、ヒポちゃんは、小さなポリエチレンの小袋に入った結晶を3回分くれた。「特別サービスよ」という。ヒポちゃんは、キャバクラのホステス以外に「風邪薬の売人」もやっていたのだ。


自宅に戻った太郎は、残った「風邪薬」を大事にしまっておく。高価なものだ。大切に使わないと。誰かが、太郎がシャブをやっていると警察に匿名で垂れ込む。数日して、練馬警察が太郎の自室のガサ入れに入り、太郎を覚醒剤所持で現行犯逮捕する。誰がたれこんだのか?猫角蜜子に聞いたら分かるかもしれない。


覚せい剤取締法に定められている罪状には、輸入、輸出、所持、譲渡、譲受、使用、製造がある。この中で、現実に一般人が罪を問われるのは、所持、譲渡、譲受、使用だ。10年以下の懲役となる。営利目的の場合、つまり、売人は、20年以下の懲役と重い刑が下される。

覚醒剤で逮捕されるケースのほとんどが尿検査による陽性反応が出た場合だ。覚醒剤は使用してから2週間程度で陽性反応が消える。陽性反応が出なければ、逮捕されることはない。また、利尿剤を使って無理やり覚醒剤成分を体外に排出してしまえば、3日ほどで陽性反応は出なくなる。だから、シャブ中ならば必ず陽性反応が出て捕まるというわけではないのだ。

覚せい剤反応は、髪の毛からも検出できる。髪の毛の方の陽性反応は、一度覚醒剤を使えば当分の間消えない。警察では、髪の毛の検査までは、原則、やっていないようだ。だが、シャブ中は、万が一を考えて、頭を坊主刈りにする場合があるようだ。野球の喜代原のように。


太郎は、自室の中で覚せい剤を隠し持っているのを見つけられた。尿から陽性反応も出た。よって、覚せい剤所持と使用の両方の罪を問われる。入手先を追及されるが、言を左右にして口を割らない。キャバクラ、キメセクのかわいいヒポちゃんから買ったとは、口が裂けても言えない。女子の為に秘密を守るのが、男子たるものの矜持だと信じているのだ。変なところで男気を発揮する太郎であった。(続く)


だが、ヒポちゃんの方は用意周到だ。猫角蜜子から内緒で貰った「支度金」でさっさと要町のマンションを引き払い、錦糸町のキャバクラに転職した。錦糸町のキャバクラ、東京落胆地では、イエローキャブちゃんと名乗ることにした。ちょっと長い源氏名だが、気に入っている。アメリカの黄色いタクシーが何故かお気に入りなのだ。イエローキャブが「誰でも乗せる黄色人種、日本女」という意味を持っていることをヒポちゃんは勿論知らない。

池袋のキメセクの店に警察が捜査に入っても、なにも困らない。店もヒポちゃんの行方は把握していないと答えるだろう。錦糸町まで追いかけられる恐れはない。

留置場に入れられた太郎は、保釈を申請する。容疑を認めているので比較的スムースに保釈が認められる。保釈金の200万円は、老母の貯金から下ろした金を充当する。「痛いな。貴重な現金を使っちまった。」保釈された太郎は、真っ先に猫角姉妹のところに向かう。


「あんた、シャブで捕まったんだってぇ?なにやってんのよ!」

猫角蜜子に注射を打たれた記憶がかすかに残っている太郎は、怪訝な顔をする。だが、血の巡りが悪いので、自分がかどわかされていることに気が付かない。


「まあ、初犯だし、単純な事件だから懲役1年6か月に執行猶予3年ってところかな?」「静かにしていれば、3年で刑が失効して自由になるから。」

京都の当事者大学の法学部を出た蜜子は、すらすらと太郎の今後を解説する。

太郎は、一か月ほど後の地裁の公判で、執行猶予を言い渡され、即日、釈放される。そして、誰も迎えに来ない留置所を出て、とぼとぼと自室に戻る。仕事に出ることもなく、ひたすら謹慎して3年間を穏便に過ごすしかない。だが…..夕食を買いに外に出て帰って来た時、太郎は、さらなる試練に直面することになる。

両手にポリ袋に入ったスーパーの食材を下げた太郎は、自室の入り口で練馬署の刑事数名に取り囲まれる。「阿蘇太郎さんですね。お部屋の中を調べさせてもらいます。」刑事は、捜査令状を太郎の目線にかざして通告する。一体何がどうなっているやら。どかどかと太郎の部屋に入り込んだ刑事たちは、家探しを始める。10分ほどして、押し入れの奥から白い結晶の入った小袋数点を刑事が見つけ出してくる。太郎には身に覚えのない代物だ。「俺のじゃない!俺は知らない!」そう叫んでも、無駄である。太郎は、覚せい剤所持の現行犯で逮捕される。執行猶予中の犯行ということになる。前科の執行猶予が取り消される。新たな罪状が加えられる。合計で3年か、それ以上の実刑が課せられるか?誰かに嵌められた太郎。誰だろう?猫角蜜子に聞いてみたらわかるかもしれない。(続く)


程なくして、阿蘇太郎は、覚醒剤取締法違反で収監される。これで、3年は娑婆には出てこれない。


阿蘇太郎の老母の成年後見人である猫角蜜子は、これで、心おきなく、老母の財産の洗い出しに掛かれる。徹底した家探しをして、金目のものは、次々持ち出す。愛車のアルフォードが活躍する。ネコネコハウスの支所の一室にこれらの遺留品を移動する。少しばかりの現金と預金通帳数通はみつかった。後見人の権威をかざして、これらを現金化した。だが、たいした金額にはならない。


宝石と金製品が少しあったが、これは、結構な金額になった。亡くなった老父が趣味で収集していた銅版画が、そこそこの金になった。これはまあまあの収穫だった。だが、キメセクのヒポちゃんへの謝礼や太郎への前渡金で、現金収入の大半は使ってしまっている。肝心の不動産の権利書は見つからない。これでは、全然、採算ベースに乗らないではないか。苦労ばかりして、実入りのないババをつかまされたということか?実際、猫角姉妹の懐にはほとんど金が入っていないではないか。

本来なら、爺さん婆さんに保険を掛けて、たっぷり現金化したいところだ。だが、猫角姉妹は、借金取りに追われ、目先の返済に迫られている。じっくりと何年も掛けて生命保険詐欺を仕組むような状況にないのだ。

奪取した婆さんの財産については、役所に報告しなくてはいけない時が来る。預金通帳のコピーの提出を求められる。勝手に引き出していると分かれば、警察に摘発されてしまうし、業界のブラックリストに載ってしまう。預金通帳のダミーを作ってくれるところがあるらしいが、コストはかかるし、伝手もない。


他にも似たような後見人のケースを2件取り扱ってみた。結局、どちらも、大きな収入にはならなかった。残った爺さん婆さんの処理に苦労させられただけだった。老人の自宅から持ち出した遺留品は、うずたかく、ネコネコハウスの内部に積み上げられた。では、爺さん、婆さんそのものは?寿命が来れば、人は死ぬ。死ねば、成年後見人の役割は終わり、役所による管理監督もなくなる。盗んだ資産は、もはや追及されない。つまり、少しばかり、死期を早める術を使って、3人とも黄泉の国にお送りしたのだ。その3人の遺留品の山を、ネコネコハウスを訪れた第三者に見とがめられたのは、猫角姉妹の大きな失敗であった。(続く)


猫角姉妹は、つくづく思った。姉妹二人だけで、介護詐欺を仕組むのには無理がある。様々な分野の専門家を揃えなければ、効率よく、良質で大型の介護詐欺を仕込むことは難しいと。


「結局、弁護士とか司法書士とかが仲間にいないと、本物のカモの選別ができないのよー。情報収集も情報分析も私達じゃ、どだい無理なのよー。弁護士なんて、オンラインでデータベースと繋がっていて、個人の資産なんて、ワン・クリックでわかるってよ。」「介護事業だからさー、気心の知れた介護士とか看護師がいないと、爺さん婆さんの家庭事情とかをうまく拾えないんだよね。それに、医者ともつるんでいないと、爺さん婆さんの最終処分に困るんだよね。致死薬物とか、ダミーの死亡診断書とかいるからね。」「いろんな人材が揃っていないと、介護詐欺とか保険金詐欺とか、大きな仕事は無理だってことだね。」


そんな会話をしている時、自動車保険詐欺で親交のある名古屋のホース・エイジ修理工場の社長から、たまたま電話連絡があった。ここのところ、何度か連絡がある。なにやら、姉妹の最近の動向を知りたがっているようだが、目的は分からない。姉妹は、中華麺社長に、意を決して、裏ビジネスのことを聞いてみる。「あのさ、介護がらみのさ、いろいろちょっと非合法に儲ける方法あるじゃない?」


姉妹が介護詐欺に手を出していると知った社長は、「裏社会組織を紹介しましょうか?」と低い声で打診する。中華麺社長の周囲には、以前から、詐欺ビジネスに従事してきた、いわば、プロ集団がいるのだ。中華麺社長は、猫角姉妹の裏社会参入を歓迎する。実は、ちょっと前から姉妹を、裏社会の監視下に置いておく必要が生じていたのだ。だから、姉妹からアプローチがあったことは、渡りに船なのだ。


猫角姉妹が欲しがるような人材は、中華麺社長の背後の組織に、見事なまでに揃っていたのだ。保険業界20年のベテラン。汚れ仕事専門の介護士や看護師。人殺しの薬や偽の死亡診断書なら任せておけの医師。札付きの司法書士や弁護士。この裏組織と組んで、おおきな山を狙った方が、効率よく儲けられる!


だが、一体どうやって、これだけの裏稼業人材が集められたのか?組織の中枢はどんな素性の連中なのか?何が、彼らを組織に繋いでいるのか?答えは「覚醒剤」である。裏社会組織は、覚せい剤の密売を生業としている。日本国中の覚せい剤ユーザーを物色して、裏稼業に使えそうな、気の利いた風に見えるのを選別する。そして、組織に取り込む。覚醒剤使用者であるから、組織に秘密を握られている。裏切る恐れがない。覚醒剤欲しさに、必死に仕事をする。シャブのためなら、何でもする。そして、彼らに魅力的な成功報酬を提示する。シャブも金も実力次第でいくらでも手に入る。こうして、ジャンキー軍団が次第に形成されてきたのだ。


では、ジャンキーたちを統率する組織側の連中は何者なのか?簡単に言うと「朝鮮悪」である。在日メンバーが多い。帰化した元在日も混じっている。韓国籍も北朝鮮籍もいる。893がいれば、S禍信者も統率信者もいる。要するに、なにかしら朝鮮半島と繋がった連中が、組織の中枢を占めているのだ。まさに「朝鮮悪」と呼ぶのがふさわしい連中なのだ。

一方で、ジャンキーたちは種々雑多に構成されている。日本人、部落、在日….どの要素も散見される。共通点は「シャブ中」であること。ただし、あまり、薬物中毒が進行した重症患者はいない。あまり程度の悪いのを起用すると、奇行に走って計画の足手まといになるからだ。(続く)




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